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マスクCEO、目標未達多く
米電気自動車(EV)のテスラを巡り株式市場の思惑が渦巻いている。
起業家で最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクが掲げる目標は多くが未達に終わり、ヘッジファンドに空売りの「好材料」を提供している。
テスラは電池の量産や自動運転技術の開発で足踏みしている。
だがマスクにはまだ使っていない「錬金術」がある。

 5月29日、米カルフォルニア州で停車中の警察車両に、テスラ車両が衝突した。
ほかにも停車中の消防車に突っ込む事故が相次ぐ。
いずれも運転支援機能「オートパイロット(自動運転)」モードが作動中に大型車に突っ込んだ。
悪条件がそろい、停車中のトラックの車体を看板と誤認し止まり損ねたとみられる。

 テスラは2016年に一旦黒字を確保したが、初の普及車種である「モデル3」の量産に苦しんでいる。
テスラのキャッシュフローは16年末以降、数百億円以上の規模のマイナスが続く中で、3ヶ月ごとに10億ドル(1100億円)規模の投資を続けてきた。
17年4~9月期は設備投資を前年同期の4倍以上のペースにして一気にアクセルを踏んだ。
だが年末には資金繰りが悪化し投資にブレーキをかけた。
18年1~3月期の最終赤字は過去最大を更新し8億ドルに迫った。

 これに呼応して3月ごろからテスラ株への空売りは膨らみ続けた。
4月にはゴールドマン・サックスがテスラの目標株価を切り下げ。
米調査会社S3パートナーズによると、空売り規模は5月初めに米株式市場で最高の120億ドルに近づいた。
さすがに「空売りは打ち止め感が強い」(S3パートナーズ)が、何かの拍子に再燃する可能性はある。

 時価総額が一時より下がったとはいえ、その水準は販売台数が60倍以上であるフォード・モーターを上回る。
その高株価の維持こそがテスラの生命線でもある。

 「賃金はほかの自動車大手よりかなり安いが、一定期間勤務すれば年間6千ドルから1万ドル程度のストックオプションの購入権がもらえる。」
テスラのフリーモント工場の従業員はこう打ち明けた。
テスラの株価は直近5年で大きく上がっている。
同社に組合ができないのは、ストックオプションがあるためだ。

 テスラは13年、「モデルS」の発売後の売れ行きが厳しく、倒産寸前に追い込まれた。
このときは結局、マスクが保有するテスラ株を担保にした300億円規模のローンを原資にした株の買い入れなどでしのいだ。

 さらに当時はなかった選択肢を今は持っている。
マスクがCEOを兼務する宇宙開発会社のスペースXだ。
企業価値はすでに2兆円を優に超える。
それでも上場させないのは「隠れた財布」としてテスラへの資金支援などの決定がしやすいのもあるだろう。
米モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ヨナスは「将来的には両社の統合もありうる」と予測する。

 マスクの手法は技術は確立しているがビジネスとしては開花していないものを集め、巨額投資で価格破壊までの時間を大幅に短縮することだ。
産業界がいずれ直面する技術的課題を先取りした実験企業の連合体で、その間の資金をやりくりしてきた。マスクの錬金術を読み解くカギはそこにある。
=敬称略
(兼松雄一郎)
記事ここまで


引用:日本経済新聞